ふみちゃん ふみちゃん

りょうさん、道場で「それは格言通りだね」って言われたことがあるんですけど、将棋の格言って結構あるんですか?

りょう りょう

たくさんあるよ。長年の経験から生まれた、いわば「先人の知恵」だね。

ふみちゃん ふみちゃん

全部覚えるのは大変そうです…

りょう りょう

最初はよく使われる10個くらいで十分だよ。今日はその代表的なものを紹介するね。

将棋には、長い歴史の中で受け継がれてきた「格言」がたくさんあります。格言は、具体的な定跡とは違い、様々な局面に応用できる普遍的な考え方を短い言葉にまとめたものです。

自分が初心者だった頃、定跡書を丸暗記しようとして挫折した経験がありますが、格言を意識するようになってから、初めて見る局面でも「どう考えればいいか」の軸ができました。この記事では、特によく使われる10個の格言を紹介します。

将棋の戦略をイメージした様子

この記事で紹介する10の格言(早見表)

先に全体像を示しておきます。格言は「いつ思い出すか」がわかっていないと使えないので、場面ごとに整理しました。

# 格言 主に効く場面 ひと言でいうと
1 玉の早逃げ八手の得あり 終盤の受け 受けるより先に逃げる
2 歩のない将棋は負け将棋 中盤〜終盤 歩を切らさない
3 一歩千金 終盤の寄せ 持ち歩1枚が勝敗を分ける
4 桂馬の高跳び歩の餌食 序盤〜中盤の攻め 桂を先走らせない
5 大駒は近づけて受けよ 中盤の受け 歩で近づけて手番を取る
6 両取り逃げるべからず 中盤の駒得争い 慌てて逃げず反撃を探す
7 敵の打ちたいところへ打て 中盤〜終盤 急所は先に押さえる
8 端玉には端歩 終盤の寄せ 端の玉は端から攻める
9 心配な時は歩を突け 手が見えない時 迷ったら一歩前進
10 金なし将棋に受け手なし 終盤の受け 金を軽々しく手放さない

1. 玉の早逃げ八手の得あり

王手をかけられていなくても、危険を感じたら早めに玉を安全な場所に移動させることの価値を説いた格言です。「早逃げ」は一見消極的に見えますが、後で慌てて逃げるよりも、被害を最小限に抑えられることが多いという教えです。

この「八手」については、文字通り8手分得をするという意味ではなく、「八」が「たくさんの」を表す古い言い回しで、それくらい価値が大きいという強調表現だと解釈されることが多いようです。実際の効果としては、持ち駒を受けに使わずに済むこと、玉が動いた後のマスに合駒を打つスペースが生まれること、そして王手がかからない一瞬に反撃へ回れることが挙げられます。

自分の実感としても、終盤で「詰まされそう」と感じた瞬間に持ち駒をベタベタ打って受けるより、玉を1マス広い方へ逃がしておいたほうが、結果的に長く粘れる将棋が多いです。

2. 歩のない将棋は負け将棋

歩は将棋で最も枚数が多く、攻めにも守りにも欠かせない駒です。歩を安易に使い切ってしまうと、終盤で選択肢が極端に狭まります。歩の使い方を大切にすることの重要性を表した格言です。

3. 一歩千金

持ち駒の歩1枚が、時に千金の価値を持つほど重要になる場面があるという意味です。終盤で「あと歩が1枚あれば詰んでいたのに」という場面は、経験を積むほど実感するようになります。

将棋のコマを並べた様子

4. 桂馬の高跳び歩の餌食

桂馬は前方に大きく跳ぶ独特な動きを持つ駒ですが、勢いで進めすぎると、相手の歩1枚で簡単に取られてしまうことを戒めた格言です。攻めに気持ちが先走ると起こりやすい失敗として、初心者がよくつまずくポイントでもあります。

5. 大駒は近づけて受けよ

飛車や角行のような大駒は、遠くから睨みを利かせている状態が一番やっかいだ、という考え方に基づく受けの格言です。離れた位置にいる相手の大駒を、歩を突いたり歩を打ったりしてあえて自分の近くまで引き寄せ、その大駒に当てながら受けるのが狙いです。

ポイントは「手番」にあります。大駒に当たりをつければ、相手はまず大駒を逃げなければなりません。歩1枚の犠牲で1手を稼げるので、その間に自陣の急所を補強したり、攻めに転じたりできるわけです。

対になる格言に「大駒は離して打て」があります。こちらは打つ側の心得で、大駒は敵陣から距離を取って打つほど、当たりが付きにくく利きも広く使える、という意味です。攻める側は離して打ち、受ける側は近づけて受ける。同じ「大駒と距離」の話を、攻守それぞれの立場から言い表した一対の格言だと理解すると覚えやすくなります。

6. 両取り逃げるべからず

自分の2つの駒が同時に相手に狙われる「両取り」の状態になったとき、慌ててどちらか一方を逃がすのではなく、他の場所で反撃したり、より大きな価値を作ったりすることを考えるべき、という教えです。両方とも助けようとして、かえって形勢を損ねてしまうことへの戒めでもあります。

たとえば角で飛車と銀に両取りをかけられた場合、飛車を逃げれば銀を取られ、銀を助ければ飛車を取られます。どちらにしても損は確定しているので、逃げる手に1手を使うより、その1手を相手玉への攻めや自陣の要所の補強に使ったほうが得になる、という発想の転換です。**「損は確定した。ではその1手をどこに使うのが一番得か」**と考え直すきっかけとして使える格言だと思っています。

対局を続けている様子

7. 敵の打ちたいところへ打て

相手が「ここに駒を置きたい」と思っている急所は、多くの場合、自分にとっても価値の高いマスであることが多いという格言です。相手の狙いを読み、先回りしてその急所を押さえることの重要性を説いています。

8. 端玉には端歩

玉が盤の端(1筋や9筋)に囲われている場合、端の歩を突き捨てるところから攻めを組み立てやすいという格言です。端は駒の逃げ場が少ないため、端玉に対しては端攻めが有効な手筋になりやすいとされています。

9. 心配な時は歩を突け

次に何を指せばいいか迷ったとき、無理に大きな手を指そうとせず、歩を1つ前に進めるだけでも局面が前進するという教えです。歩を突くことで相手に次の対応を強いたり、自陣の形を整えたりする、地味ながら堅実な一手になることがあります。

10. 金なし将棋に受け手なし

金将は、玉将のすぐそばで守りの中心を担う重要な駒です。金将を手放しすぎたり働かせられなかったりすると、守りの手段が極端に減ってしまうことを表した格言です。攻めに気を取られて金将を軽視しないよう戒める意味も含まれています。

崩れた駒の様子

格言には例外もある

大事なのは、格言を「絶対のルール」だと思わないことです。将棋の格言は経験則をわかりやすく言い切った表現なので、当てはまらない局面も普通にあります。

  • 「玉の早逃げ」も逃げ道を誤れば裏目に出る: 広い方ではなく狭い方へ逃げてしまうと、かえって早く詰まされます。逃げる前に「どちらが広いか」を数える習慣が必要です
  • 「両取り逃げるべからず」は逃げたほうが得な場合もある: 逃げる手が同時に相手の攻めを受ける手になっているなら、素直に逃げるほうが優ります
  • 「桂馬の高跳び」も成立する跳び方がある: 取られても、その1手で相手の駒がそっぽに行くなら十分に元が取れます

矛盾しているように見える格言が同時に存在するのも将棋の面白いところです。先ほどの「大駒は近づけて受けよ」と「大駒は離して打て」がまさにそれで、どちらの立場から見た話なのかを区別できるようになると、格言の理解が一段深くなります。

格言をどう活かすか

これらの格言は、特定の局面での「絶対の正解」を示すものではなく、迷ったときの判断基準として使うのが実践的な活かし方です。自分は特に「桂馬の高跳び歩の餌食」と「玉の早逃げ八手の得あり」を、対局中に何度も自分に言い聞かせています。格言を知っているだけで、初めて見る局面でも落ち着いて方針を立てやすくなります。

覚え方としておすすめなのは、格言を1つずつ「自分の負けた将棋」と結びつけて記憶する方法です。感想戦や棋譜の振り返りで、「あの手はまさに桂馬の高跳びだったな」と紐づけておくと、次に似た局面が来たときに思い出せる確率が上がります。実戦での気づきを増やすという意味では、詰将棋の解き方のコツで紹介した終盤の練習と組み合わせると、格言1〜3や8のような終盤系の格言が特に身につきやすくなります。

また、戦法ごとに「効きやすい格言」も変わります。棒銀のような銀を前線に繰り出す攻めでは、4の「桂馬の高跳び」と同じく駒の先走りに注意が必要ですし、振り飛車で美濃囲いに組んだときは、10の「金なし将棋に受け手なし」が実感として理解しやすいはずです。

まとめ

将棋の格言は、先人たちが積み重ねてきた経験の結晶です。すべてを一度に覚える必要はありませんが、対局を重ねる中でその意味を実感する瞬間が必ず訪れます。まずはこの10個を頭の片隅に置きながら対局してみて、少しずつ自分の判断の軸として活用してみてください。

ふみちゃん ふみちゃん

「桂馬の高跳び歩の餌食」、まさに私がよくやる失敗です…気をつけます!

りょう りょう

格言は知っているだけで、対局中にふと思い出せるようになるからね。少しずつ実感していけば大丈夫だよ。